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2013.01.22 18:15


こんにちは、

毎日寒い日が続いておりますが皆さまお元気にお過ごしでしょうか? 私は子供の受験で胃に穴が開きそうです。←子離れできてない。

で、すみません、こちらGenesisの妄想でございます。
いやぁ、Genesis薪さんのエキセントリックさとアンビバレントさは最高ですね。

なのにこんな妄想すみません。

よろしかったら……
























 海を見たことがないと薪が言うので、鈴木は彼を連れて近県の海水浴場を訪れることにした。

 秋もすっかり更けてもう冬の足音さえ聞こえてきそうな時期にわざわざ海へ行くなんて本当に酔狂だと鈴木は思う。
 夏にはどんなにひとと波でにぎやかな観光地だったとしても、陽だまりの暖かさを風が根こそぎさらっていくこの時分には絶対に誰もいないだろう。

 それでも薪は、待ち合わせた駅でまず、今日の昼食用に駅弁を買うんだと鈴木が言ったら、首を傾げて不思議そうに瞬きした後で、
「そんなこと、ぼく、初めてだ」
 まるであどけない声でそう言った。

 近郊列車に並んで乗り込む。
 田舎へ行くボックス型のシートも薪は初めてだと言う。
 進行方向に、並んで薪を窓側に座らせてやると彼は銀色の窓枠に指を掛けながら物珍しそうに瞬きする。
 始発駅から、どうしてこんなに混んでいるんだろうと思う電車も、川をいくつも越えて建物より緑が多くなってくる頃にはずいぶん人もまばらになってきている。
 その間ずっと、薪は隣に座った鈴木とほとんど口を利きもせず、窓枠に肘をついて、銀色の額縁にトリミングされた景色の前から後ろに流れていくのを瞳に映していた。
 その彼の様子に、鈴木も何も言わずに付き合っている。ただ鈴木が気付いたことには、床についた薪の足先が時折、まるでリズムを刻むようにぱたぱたと上下するのに、
「楽しい?」
 訊けば薪は相変わらず視線を外に置いたままこくりと頷いた。

「こんなに長い間電車に乗っていたの、ぼく初めてだ」
 薪がそう言い出したのは、最初に乗ったJRからいよいよ海辺へ近づくために鄙びた私鉄へ乗り換えをする時だった。
「京都に越した時は飛行機だったし、澤村さんのことがあったから遠くへ行くこともしなかったし……」
 だから修学旅行にも行かなかったんだよね、ほんの少し笑いながらそう言った薪の、手を引いて鈴木は彼と並んで私鉄駅のホームのベンチに腰掛けた。

「次の列車まで30分もあるぞ、信じられないな」
「すごいよね、線路が一本しかないよ、ここ」
「単線っていうんだ……しかも電線がない」
「ディーゼル列車か……ぼく、本でしか見たことない」
「じゃあ、ちょっと早いけど飯、食っちゃうか? 買ってきた弁当」
 鈴木の申し出に、薪はこくりと頷く。下げた目じりに瞳を細めて、紅色をさした頬と唇で薪が笑うと本当に彼はあどけなく見える。それはまるで何も知らない子供のように。
 膝の上に広げた弁当と、鈴木が自販機から調達してきた日本茶の温まったのをプルタブを引いて差し出せば、礼も言わず受け取った薪は不思議そうな瞳で大粒の涙と同じ形をした飲み口を見つめてから、
「スチール缶に直接口付けるのも、ずっといけないって言われてたんだ」
 そう言ったのに、何のためらいもなく唇を近づけた。
「……なんで?」
 同じように、缶に口を付けながら鈴木が尋ねる。お茶を一口啜った薪が缶をすぐ傍らに置きながら頷く。
「うん……衛生上良くないから、って」
「へえぇ……」
 呆れたような声と、少し空を上目使いに見上げて、ふぅと一つため息を吐いてから、鈴木は弁当についてきた割り箸を勢いよく割った。
「本当にお姫様だったんだな、おまえ………」

 二人が食事を終えた頃を見計らったように、海へ近づく列車が二人を連れに来る。一両編成の小さな赤い列車には田舎の昼過ぎにふさわしく誰も乗っていない。

 擦り切れそうなベルベットの深緑色の座席に腰掛けると窓の形で一列に並んだ陽だまりが車内の空気を暑くしている。
 ホッチキスみたいな開閉ボタンを押して、鈴木は自分たちが座る背中の窓を細く開けるとガタガタと鳴る線路のつなぎ目の音がひんやりとした風と一緒に入り込んできた。
「やっぱりちょっと寒いか?」
 窓からの風が薪のうなじにつく薄茶色の髪を揺らしているのを見止めて鈴木が尋ねる。
「ううん…気持ちいいよ」
 鈴木の顔を見もしないで、そう答えた薪は体を斜めにして窓から前方の風景をじっと眺めている。咎めもせずに鈴木も、風と振動が薪の髪と肩を揺らすのを窓枠に着いた肘と組んだ足で見つめている。
「もう磯の香りがするな………」

 降り立った駅の構内を出て、車のほとんど来ない広い道路を渡ればすぐに海が見えた。
 少し小高くなった歩道で、まっすぐに差し込む光の強さに額に手を当てて作ったひさしの下から、薪は視界の限りに続く枯れ草色に乾いた砂浜とその向こうで白い波をレースのようにさざめかせながら灰色がかった青色にうねる海を見渡す。

 彼にとって初めての海だ。

「すごいね、あれ全部みず?」
 子供でも言わないような言葉に鈴木が苦笑いする。
「行ってみて良い?」
 鈴木の肯くのを待ちきれないように、薪は見張ったままの瞳で車道を横切って砂の上に駆け出した。

「歩きにくいよ、鈴木」
 夏に置いて行かれたプラスティックのバケツの傍で薪が振り返る。鈴木は笑いながら片手を上げて応える。薪も笑い返してまた波打ち際に向けて走り出すのに、鈴木がゆっくりとついて行く。

 鈴木の見ている前で、薪は波の引いた際まで近づいて立ち止まるのにまたすぐ寄せてきた波に逃げるように戻ってくる。でも波が帰って行けばまた、さっき攻められたことも忘れたように引いた水を追いかけては、すぐ追われて逃げ帰る。
「…まるでイヌだな……」
 波につられて行ったり来たりを、飽きるでもなく繰り返している薪に鈴木は呟く。
 鈴木にとって薪は本当に不思議だ。世界中のあらゆる知識を持っているようで、なのに皆がわかって当然のことを何も知らない。

 彼はまるで、と鈴木は思う、それまで小さなメディウムの中で純粋培養されていたのが今、広い外界に放たれて目と手に触れるあらゆるものを吸収しながら一切の制約なく成長しているような、彼はこれからもっと大きく豊かになるだろう。

「?」
 鈴木がふと気づけば、それまで幼子のはしゃぐようだった薪がおとなしくなっている。
 棒立ちになって海風に髪をそよがせながら彼方の空との境界線辺りに瞳を向けていた。
「どーしたー?」
 その変容ぶりに、のんきな声を出しながらも心配した鈴木が足早に薪の傍に寄る。並んで立って、身体を屈めて薪の顔を覗き込めば、薪はまるで気が抜けたような表情で黙って瞬きしていた。
「どうした?」
 ともう一回訊かれて、薪はほんの微かに頭を振ると小さな声で、あのね、と言った。
「あのね、鈴木……ぼく、海に来たことがあったよ」
 意外な薪の言葉に鈴木は黙って瞬きする。鈴木に目を向けもせず、じっと前を見据えたまま、薪は言葉を継いだ。
「お父さんとお母さんと…どこの海かは覚えてない、でも……犬が居たよ、多分シェルティ、さっきのぼくみたいに波に遊ばれてた…綱を付けてなくて、ぼくが近づいたらじゃれてきて、ぼくより大きな犬だったから砂の上に押し倒されて…泣いたら駆けつけてきたお母さんが抱き上げて頭を撫でてくれた……」
「…………」
 犬よりも小さな彼ならば、それはずいぶん古い記憶なのだろうと鈴木は思う。薪は忘れかけた引き出しから取り出してきた手紙を読むようにそう告白して、自分の足の爪先を見るように俯いた。
「どうして……? どうして忘れちゃっていたんだろう、ぼく」
 俯いたままそう絞り出すように言った、薪が泣いていてくれれば良いのにと鈴木は思った。
「あの火事の前の、お父さんとお母さんのこと」
 泣いてさえいてくれたら、他愛なく慰めることもできたのに、自責の念では鈴木は、賢すぎる彼をいったいどう宥めて良いのかわからない。

 ただ、炎で炭素と水蒸気に変わった写真たちと違って彼の記憶は決して失われたわけではないだろうと鈴木は思う。そしてそれがたった今みたいに取り戻すことができるなら、自分はその手助けがしたいと鈴木は思って、でもそれを口に出すことを彼はしない。

 項垂れた薪の肩に手を廻して、彼の頭を自分の肩に持たれ掛けさせる。相変わらず俯いたまま、しかし薪は素直に彼の胸に自分の体の重さを掛ける。
 引き寄せた手の指で鈴木は、薪のこめかみから彼の髪を梳く様に撫でた。

 もうすぐ冬が来れば、凍った梢の先から射す透いた陽を見上げながら霜柱を踏んで、待ち遠しい春の訪れには友だちも誘って桜の花明りの下でバカみたいに大騒ぎをしよう。夏になったらまた海へ来て、知らない犬を追いかけて、秋は一枚余計に羽織った上着で南の空の丸い月を見上げよう。一緒に。
 かつて確かにあって、でも今は偶然忘れてしまった彼の幸福な記憶全部を思い出せるように。

 自分がどうしてそんなことを思うのか、鈴木には知れない。
 けれど、抱き寄せ添わせた薪の髪の間に繰り返し繰り返し手指を滑らせながら、次に薪に何をしてやろうかと鈴木はそんなことばかり考えていた。







(終わりです)
読んで頂いてありがとうございました。


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