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2013.01.04 10:33



こんにちは。

このところの続き物、これで終わりです。

よろしかったら追記からお付き合いください。




















 ゼミの仲間と、そして何故か雪子たちが待っている教室に薪が鈴木を連れて戻ってきた時、会場の中ではまもなくの出店の準備で忙しくしていたが、
「薪と鈴木が来たぞ」
 と教える誰かの声で、途端にそれまでの仕事を放りだして全員が彼ら二人に向かって集まってきた。
「やだ、ほんとにメイドの恰好してる」
「うわっ、超かわいいじゃん!」
「似合ってんよ! 不思議なくらい」
「薪なら不思議じゃねぇだろ」
「圭! でかした!!」
「……!……」
 その人数と集ってくる勢いに自然薪の気持ちが引く。我知らず一歩後ずさりした薪に、彼を支えるように鈴木が肩に手を置く。
 自分に向けられた言葉の一つ一つを処理しようとして、しかし結果、知らない国の言語で話し掛けられた子供のように自分の周りの人々をただ不思議そうに見上げるだけの薪のあどけない様子に、
「ああ、はいはい、みなさん落ち着いて」
 彼の背中から鈴木が、本当に仕方がないと呆れたような顔と声と、ぞんざいな仕草で薪の前に集まった人を払った。
「もうすぐオープンなんだろ? 支度しろよ」
「鈴木は?」
「おれは薪のマネージャー」
 言って鈴木は薪を、提供する食べ物を用意するために仕切られた教室後方のスペースへと連れて行く。

「ねぇ、これだったらお化粧しなくてもいいんじゃない?」
 その二人について歩きながら雪子が訊く。
「だったらおまえがここにいる理由なくなっちゃうじゃん」
 そう返したのは鈴木。
「あれ? 克弘君はじゃあ、つよし君にメイクして欲しいの?」
「そういう意味じゃなくて……」
「写真撮らなきゃ、楽しみにしてる子、たくさんいるのよ」
「……やっぱり帰れ、おまえ」
 言いながら、電気ポットが3つも並んだテーブルの前まで来た彼らを、今回の企画者の圭が迎えた。
「似合ってんじゃん」
 薪を見た途端、冷やかすような口笛を吹いて言った圭を鈴木がじろりと睨みつける。途端に圭は目を逸らす。でもすぐに、窺うような目で鈴木を見上げる。薪の後ろで鈴木は表情をいっぺんも変えずに睨み返す。

「で? ぼくは一体何をすればいいんだ?」
 鈴木と圭と、二人の間に一瞬流れた不穏な空気に全く頓着せずに薪が訊く。
「なにをすれば、って………?」
 改めて尋ねられて、いったいどう返事をしてよいかわからず圭が戸惑う。鈴木と雪子は顔を見合わせる。
「だから…メイドさんだから……」
 いらっしゃいませ、ご主人様とか…萌え萌えキュンとか…するんじゃないかと……
「………?」
 うまく説明できず口ごもる圭に仕方なく、薪は自分の後ろにいた鈴木を振り返って、
「ごめん、『メイド喫茶』って名前は聞いたことあるんだけど、実際どんな場所なのか知らないんだ」
 困ったように瞬きすれば、
「そこからかよっ」
 鈴木も圭も、もちろん雪子も、すっかり脱力してしまった。

「だって、メイドってお手伝いさんのことだろう? お掃除とか洗濯とかハウスキーピングしてくれるのが仕事のメイドさんが喫茶って………」
「『メイド喫茶』って言うのはな……」
 と、いたいけな様子の薪に向かって言い出したのは鈴木だ。しかし本意でない、嫌々なんだというのがはっきりわかる声色で言う。
「ウエイトレスさんがメイドの恰好をしてる、なんというかちょっと普通と違う喫茶ていうか……」
 でもやっぱり、鈴木が薪に、今自分の、それからこの後すぐに自分に訪れるであろう境遇をなるべくソフトかつ的確に説明しようとして言いあぐねている内に、
「広報委員だって、薪を取材したいってよ!!」
 『メイド喫茶』のバックヤードに駆け込んできた声にそれまでの会話はすべて消え失せてしまった。

「広報って?」
 と訊き返したのは圭だ。
「文化祭の取材だって、メイド姿の薪の写真と、できたらコメントも欲しいって、教室の前で待ってるよ」
 急かす声に圭が無言のまま薪へ視線を送って彼の許可を求める。
「ぼくは別に構わないよ」
 薪の返答に、彼の後ろで鈴木が目を剥く。しかし鈴木のその剣幕を無視して圭が、
「じゃ、今行くって言って」
 応えを返しながら入口に向かうのに、薪も彼に従って行く。さっきよりさらに嫌そうな顔になった鈴木と、逆に楽しくて仕方なさそうな顔の雪子も薪について入口へ向かう。

「なあ、おれたちも薪の写真撮ろうぜ、そんででっかく引き伸ばしてカラーコピーしてポスター作ろう!」
 教室の出入り口で、圭たちを待っていた一人が言い出す。
「ポスターか…良いね、許可取ってないから貼れないけど持って回って宣伝するか」
 薪の意向を聞きもしないで、しかし彼はもう薪はこの行事関連ではどんなことを言っても断ったりしないと信じていたのだが、圭が頷いて話を勧めようとする。
「そういうの、得意なのは………」
 言いながら圭が、自分の後ろと鈴木の間に居た薪を自分の前に誘おうと体を斜めにするのに、
「ちょっと待て」
 彼に従って前へ出ようとした薪の肩に手を掛けて鈴木が止めた。
「ポスター? なんだ、それ」

「鈴木?」
 その指の力強さに薪が不思議そうに自分を止める鈴木を振り返り仰ぎ見る。彼は薪が今まで見たこともないような恐ろしい表情で、圭と、彼と話をまとめようとしていた一連を睨みつけていた。
「ポスター? 広報誌? ふっざけんな!」
「おい、鈴木…なにマジに怒ってんだよ」
 薪の肩が震えるくらいの大声に、圭が驚きを隠しながら薄く笑って言った。鈴木は聞かない。
「そんなものに載せられた薪の写真がどうなるか、考えてモノ言ってんのか?」
「いや、お祭りだから…それにこんなに似合ってるんだし」
「実行委員会が目つけるくらいかわいいんだぜ」
「そうそう、うらやましいって思われるだけで、他の奴のきったない女装みたいに汚点になんてならないよ」
「違う!! おれが言ってるのは! そんな紙切れの末路考えてみろ、破けたり丸められたり、誰かに踏まれて、ゴミに出されるかもしれないんだぞ、耐えられるか? 薪の写真が、そんな粗末にされるの……」
「…………………」
 たった今まで盛り上がっていた場の雰囲気がいきなり氷点下に落ちる。鈴木の剣幕に戸惑って居心地悪そうにしている圭を庇うように、
「鈴木…ぼくは別に」
 そう言った薪の声がスイッチになってしまったのかもしれない。

「………帰るぞ、薪」
「え」
 言った途端、鈴木は薪の肩を抱いて教室のドアから飛び出した。
 小さく細い薪の体が鈴木の腕に抱き込まれたまま半分引きずられるようにして連れて行かれる。
「あ、ちょっと待て、鈴木! 今日の主役………」
 引き止める声なんて届くはずがない。あっという間に文化祭の準備の人ごみに消えて行った二人を今回の企画者の圭は青ざめて見送った。
「………薪がいなくなっちゃって……どおすんだよ、おれたちの『メイド喫茶』………」
 男しかいないゼミの喫茶店にひとなんて集まるわけがない。薪の人気を予想して大量に仕入れたケーキとコーヒー豆を思って圭はがっくりと肩を落とした。

「しょうがないなぁ…じゃあ、つよし君の代わりにわたしがやってあげるよ」
 すっかりうなだれた彼の後ろから急に雪子が言い出した。
「他の子も手伝ってくれるよ?」
「へ?」
「なぜか不思議なことに人数分のメイド服の用意もあるんだよねぇ……」
 弾かれるように頭を上げた圭に、可笑しくて仕方ない様子で雪子が笑う。
「こんなことになるんじゃないかと思ってたんだぁ…よかったよ、フォローの準備してきてさ」
「どういうこと?」
 雪子の言葉に圭が不審そうに眉をしかめる。
「克弘君がつよし君にメイドなんて、させるわけないもん…いつ限界が来るかと楽しみにしてたんだぁ、着替えまで許すとは、結構我慢した方だねぇ………」
「どういうことだよ?」
 まったく訳が分からないと、言葉を強くする圭に雪子はくすくす笑いながら続けた。
「自分を安売りするな、ってことでしょう?」
「『メイド喫茶』が?」
「教えたかったのよ、自分をもっと大切にしろ、ってつよし君に」
「…それで? 自分の彼女にはメイドさせて良いってわけ?」
 それでもまだ合点がいかない圭に、
「どうかな? わたしがメイドやるって言い出すこと、克弘くんは知らないし…もし知っても『面白いな』って言うだけかもね?」
 と雪子は返事をした。
「それで良いの?!」
 そう圭が訊いたのは、今回の自分の企みを台無しにされてしまった怒りの八つ当たりもあったかもしれない。でも雪子は相変わらず楽しそうな風情で、
「つよし君と知り合ってからね」
 いつの間にかメイドの恰好を装っていた彼女の友人たちが他のゼミ生に段取りを尋ねたりするおかげでそれまで沈みかけていた教室の雰囲気が戻りかけた中を、さっき居たバックヤードの仕切りの後ろまで誘いながら言った。
「克弘くん、浮気しなくなったのよ、それまで歩く男性器みたいな男だったのに」
「雪子ちゃん、それって……」
 はしたない雪子の言い様に圭が呆れた声を出す。
「良いのよ、別にゴーカンとかそんなんじゃなく、ただ来るモノ拒まず全部食っちゃってただけだから」
「あの……一応鈴木の彼女だよね……?」
「そんな克弘くんのまんまでもわたしはよかったんだけど……でもね、つよし君に教えたいんだって、正しいこと、いけないこと、全部」
「……………」
「お父さんなのよ? 本人自覚はないけど、そんなつもりでいるの」
 だから良いの、と笑う雪子に、
「そんな物分りのいいこと言ってると、いつか取られちゃうかもだぜ?」
 圭が呆れきったため息を吐いた。
「大丈夫、もうとっくに奪われてるわ」


「…っ、痛い、鈴木、離せ……って」
 教室から連れ出された直後には、鈴木の剣幕といったい何が起こったのか判断できなかった戸惑いで素直に彼に従っていた薪が、急に我に返って鈴木の腕から逃れようと暴れ出す。
「何、考えてるんだよ、鈴木っ、ぼくがいなくなっちゃったらみんなが困るだろっ!」
「うるさい、言うこときかないんなら担ぐぞ」
 行き交う人波を上手に避けながら、今まで薪が聞いたこともないような冷たい声でそう告げた鈴木の顔を、彼に引きずられながら見上げたら鈴木は同じく薪がこれまで見たこともないような不機嫌そうな顔でただじっと前方を睨みつけていた。
「…………」
 ぼくの言うことも聞かず勝手なことを、そう言って鈴木の腕を払ってしまいたい。横暴な鈴木の言うことなんて絶対に聞きたくない。そう思うのに、鈴木の横顔を見上げたらなぜか反抗できなくて、薪は素直に彼に運ばれてしまう。

 やっと鈴木の足が止まったのは、文化祭の喧騒から一番遠く離れた古い教室の一角で、木製の長椅子に無言のまま薪を座らせその隣に自分が乱暴な所作で腰を下ろしても、しばらくの間鈴木は一言もしゃべろうとしなかった。
遠くからひとの声が波の音のように低く響いてくる。それしか聞こえない静寂の中で二人、互いの顔を見もせずに黙って座り込んだまま、しばらく経った後に、
「ごめん」
 と小さな声で謝ったのは薪だった。

「……なんで薪が謝るんだよ」
 隣の薪の顔を見もしないで鈴木が不機嫌そのままの声で訊く。
「おれが怒ってるからか?」
「違うよ、鈴木が怒ってるからじゃない、鈴木は……」
 不機嫌な声を見上げて、ふと薪は鈴木の膝の上で彼の手が痛ましい位強く握りしめられているのに気づく。瞬きして、薪はその上にそっと自分の指を載せた。
「鈴木は怒ってるんじゃない、傷ついてるんだろう? どうしてかわからないけどぼくが、おまえを傷つけたんだ、だから…ごめん」
 小さく頭を下げて薪は鈴木の手の甲を慰めるように優しく撫でる。その手を摑まえて、引いて鈴木はその勢いに斜めに倒れかけた薪の体を膝の上で抱きしめた。
 大きな体を丸めて自分の膝の上の薪に覆いかぶさるように、まるで外の誰からも、薪を見えなくするみたいに、抱き締める。
「おまえが大事だ、薪…学祭より、ゼミの皆なんてどうでも…おれにはおまえが………」
 たった紙切れに写し取られたおまえの姿でさえ、粗末にされるのが耐えられないくらい大切なんだ、と薪の服の布地に吸い取られて少しくぐもった声で鈴木がそう言うのに、彼の胸の下、膝の上で薪が小さく肯くように身動ぎした。

「でもね、鈴木」
「……なんだ?」
「ぼく、これからこの恰好でどうやって帰ろうか………」
「………………」







(終わりです)
お付き合いいただいてどうもありがとうございました。




実はこれのさかな編もあります。
ほんとはこれに続いて公開しようかと思っていたのですが、内容があまりにあまりなので、やっぱり恥ずかしいので隠します。(隠れてないけど)

不潔な薪さんと鈴木さんがおっけーな方はよろしかったら~~ でも軽蔑されそうで怖い~~


ありがとうございました。

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